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第26回 冬のベトナナムの村

 新年、早々、私と妻はベトナムへ飛んだ。

私が日本国際ボランティアセンターよりベトナムへ派遣されたのは1994年。

以来、南北に1700kmあるこの国のあちこちの村に招かれ合鴨水稲同時作の講演と農民交流を続けてきた。1998年にはハノイ農業大学でアジアの合鴨シンポジュウムを開催した。

アジアにおける合鴨水稲同時作の普及には2つのタイプがある。先進国型、日本、韓国台湾、最近の中国。これらの国では合鴨米が評価され、普通米の2〜3倍で売れる。合鴨水稲同時作が比較的速く広がっている。


発展途上国型。ベトナム,フィリッピン,インドネシア。これらの国では合鴨米が高く売れる訳ではない。しかし合鴨水稲同時作をすれば収量が増え化学肥料、農薬、除草剤などの相対的に高い工業製品のコストが節約されて利益は2〜3倍になる。普及は遅い。どうも急速な市場経済化の波の中で合鴨君が埋没しているようだ。

今回は日本国際ボランティアセンターハノイの伊能まいさんと協議して山間地の自給的稲作をしている村で勉強会を開いた。ホアビン省タンラック郡ディクザオ村はハノイの西方にある小さな村。この村で昨年38世帯が合鴨水稲同時作に取り組んだ。「朝食に豚ホルモン入りのお粥を食べましょう」と言われ食堂に行くと環境室長のフンさんや人民委員会副書記長のチエンさんなど村の世話人らしき人たちがテーブルを囲んでいた。この村の冬はコートを羽織っても寒い。私が座ると自然に焼酎を盃に注がれた。乾杯。乾杯、乾杯。

講演のことを忘れていた訳ではない。こんな場合、私は素直にその村の習慣に従う事にしている。私は酒に弱いけれども、それが礼儀であり農民交流と心得るからである。私は何杯も焼酎を飲み酔ってしまった。

講演会の会場の外の風景は素晴らしいかった。広がる水田の中に石灰岩の岩山が屹立していた。ここは少数民族ムオン族の聖地、心の故郷なのだ。私はほろ酔い機嫌でスライドを使い合鴨水稲同時作の講演をした。次にこの村の代表ニンさんが実践例を発表した。『収入が増えた。水田の肥料が節約できた。害虫が少なかった。稲の成長が良くなった。収量が増えた。10a35羽のアヒルが育った。だが、鳥インフルエンザの影響で売れなかったよ』

昼食に行くと又も乾杯…。午後も赤ら顔で、土作りの話をした。皆、熱心に講演を聴きスライドを観、幾つもの実践的質問が出された。愉快なワークショップだった。

午後4時ごろ、谷間の道を4輪駆動車で登り、ナムソン村へ向かった。比較的なだらかな所は谷間の小川を利用して、様々な形の小さな水田が続いていた。所々竹柵で囲って、稲の苗が育てられていた。田植えは2月。田んぼには既に水が張られていた。田植え前に再度、水牛で代掻きをするそうだ。ここにはまだ沢山ドジョウがいる。日本の昔々の照葉樹林の谷間の稲作は、こんな風景だったろうと思うと、なぜか懐かしい気持ちになった。

その日の夜は、副村長さんのルンさんの家に泊めても頂いた。この家はムオン族の伝統建築であり、釘を1本も使わない高床式。床下にニワトリと豚を飼っている。庭には、バナナやみかん等の果樹が植えられていた。家の柱や壁板などの構造は日本の神社にそっくりである。家の中に1m×1m位の囲炉裏があり、長い薪が中央を中心として放射状に置かれ、中心に火が燃えて鍋でご飯が炊かれていた。

ビデオで私の村の風景を見て『素晴らしい森が残っていていいですね。』とルンさんのお母さんが言われた。確かにこの村の山の下のほうは皆伐され、草しか生えていない。現在木の生えている森では、ムオン族の人たちが木を切ることが禁止されている。.薪用として枯れ木を採ることだけが許されているのだ。

ルンさんの家族は、本人夫婦と母、子供2人の5人家族。耕地は25aの畑と、25aの水田と少しの山だけである。この村に至る道は、現在舗装中。完成すれば今までと違って、多くの車や人や物がこの谷間の村に押し寄せる様になると言う。これから先、どんな農業をし暮らしていけばいいのだろうか。これが私に課せられた究極の設問である。私にはその答えは判らない。私は合鴨水稲同時作と水田輪作を組み合わせて、米、野菜、合鴨、魚を総合的に生産し、豊かに自給をしていく事が大切と思うと話した。

考えてみると、現在の日本の小さな家族農業の立場は、全く彼らと同じだ。日本の場合はWTOによる関税引き下げという舗装道路なのだ。

帰国後、程なくハノイからメールが届いた。デックザオ村では今年60世帯が合鴨水稲同時作に挑戦するそうだ。夏に、この村の田んぼの合鴨と稲とドジョウを自分の目で見たいものだ。

麦を踏む  光の春に  感謝して

                    合掌     古野隆雄

写真上【年の初めに5人の子供たちがそろった】
写真中【ベトナムの農家で】
写真下【ベトナムの農村で】


2月13日更新

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